音楽も珈琲もAから始まる ~AS TIME~

やあ。

今回も引き続き僕の地元・仙台のカフェをご紹介。

仙台味噌ならぬ手前味噌な話だが、仙台はカフェが本当に多い気がする。歴史あるお店が本当にお隣同士に出店していたり(「珈巣多夢」と「Cafe de Garcon」)、雑居ビルの2階と3階(「Cafe Mozart」と「瓦 CAFE&DINING Sendai」、極端なところだと、一つのデパートのビルに4軒も入っているところもある(仙台三越 定禅寺通り館)。

僕はサッカーや野球には疎く、選手の名前は片手で数えるくらいしか思いつかないが、仙台に星の数ほどあるカフェの名前を挙げてくれと云われたら、それこそ呪文のように延々としゃべり続ける自信がある。

そんな天の川の激流の中で磨かれた味と雰囲気。一度と云わず、何度も足を運んでみてほしいものだ。

さて、今日はその中でも北極星のように輝く老舗をご紹介したい。仙台のカフェ好きで、この店を知らないとしたら、それはモグリかもしれない。

とはいえ、お店はひっそりと、隠れ家的に存在している。

先日紹介した美しい定禅寺通りや、都会的な仙台駅前からは少し外れ、歴史ある一番町商店街の賑わいを潜り抜けていくと、あの看板が見えてくる。

「AS TIME」

階段を下りていくと、商店街の喧騒が息を潜め、静謐な時間が待ち構えている。

 

これこれ。営業中の看板に今日もほっとする。

入ってみると意外と広い店内には、地下にあるのに解放感が抜群だ。小さな木のテーブルと椅子が満ち、無音と珈琲の香りが満ちている。余計なものは置かず、引き算を極めた清潔で美しい空間。立派な白髪髭をたたえたマスターの「いらっしゃいませ」の言葉が、まるで心の中に響いてくるようだ。

メニューはきっぱりと珈琲の類だけ。しかし薄口、中農、濃口と、濃さを選択できるので、その日の気分に合わせて注文することができる。また、ブラックが苦手という方は、もちろんミルクとお砂糖を加えていただくのもよいだろう。徹底されたこだわりはあるが、懐の深さもまた、この店の絶妙な魅力なのだ。

友との語らいと珈琲。

一冊の本と珈琲。

煙草と珈琲。

あらゆるシーンに寄り添う珈琲たち。

そして何より、そんなシーンの間、話や頁の途切れ、灰が落ちる瞬間。束の間訪れる「無」の時間。こいつがたまらない。

ネルドリップで丁寧に抽出されたデミタスは、漆黒……というよりも、もはや黒いガラスを思わせる純度100%の深いコクと切れ味。

「珈琲の店」「デミタス」というと、どうしても銀座にある「珈琲だけの店 CAFE DE L’AMBRE」(国宝と云って差支えない超絶名店!)を連想するが、ランブルより控え目な感じかな。ランブルは珈琲マニア向けの感があるけど、こちらはあくまで人に彩りを添える珈琲。究極という意味ではかなり近いんだけど、方向性は違ってる。なんて、まあごたくはいい、一口。

……もう何も云うまい。

土産の珈琲豆を包んでもらう間に、二言三言マスターと話した。「今日はジャズフェスですが、マスターは聴きに行かれました?」「いえいえ、私はずっと店におりますよ」それは他愛ない話だが、大切な時間の一部だ。マスター、いつまでもお元気で。

ちなみに、ショップカードは数年前にリニューアルされて、店名の部分が金色の文字になった。息子さん?の意向だったか。

「実は金色はあんまり好きじゃないけどね」などとにこやかに謙遜するマスター。でも、これもなかなか素敵だ。

アズ・タイム。

時のままに。

かけがえのない一瞬を慈しみながらも、ずっと立ち止まっていることはできない。一杯の珈琲を飲み終えた僕は、また喧騒の中に身を投じていくが、この味を忘れない限り大丈夫なのだ。そして、この場所を必要とする人がいる限り、AS TIMEもきっと、ずっと、大丈夫だ。

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